大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成3年(行ス)9号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙抗告状記載のとおりである。

二当裁判所も、本件取消処分の効力の停止を求める申立ては理由があると判断するが、その理由は、抗告理由に対応して、以下のとおり付加、補足するほかは、原決定理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  抗告理由一について

法がいわゆる審査請求前置を定める趣旨は、抗告人主張のとおりであるが、行政事件訴訟法八条二項二号は、他方において、国民の権利救済を十全ならしめるため、処分等により著しい損害が生ずるおそれがあり、しかも、「緊急の必要があるとき」、すなわち、審査請求をしてそれに対する判断を待った上で訴えを提起したのでは権利救済上間に合わないおそれがあるという時間的に切迫した事情があるときは、審査請求の手続を経ずに訴えを提起することができるものとしているのである。ところで、本件は、平成三年七月二三日から二五日までの三日間本件公会堂を使用するについて、いったんこれを承認しながら、後に右承認を取り消した処分の効力が問題とされているものであるところ、原決定の認定するように、右取消処分は、当初承認された始期である七月二三日まで二週間足らずに迫った七月九日にされたものであり、しかも、右使用承認に係る期日を徒過すると、本件取消処分を取り消すことの意味が失われるものであることを考えると、まず、行政庁に対して不服を申し立て、その判断を待った上で訴えを提起しているのでは権利救済上間に合わないおそれがあるといわなければならず、前同号の規定する「緊急の必要があるとき」に該当するということができる。なお、行政庁へ不服を申し立てた場合、行政不服審査法に基づいて執行停止の申立てができることも所論のとおりであるが、そのことによっても右の結論は何ら左右されるものではない。

2  抗告理由二について

抗告人は、相手方は、市民生活への影響を考慮し、本件大会の日を延期して、別の妨害の少ない場所で開催すべきであったと主張する。この主張は、要するに、本件の取消処分の効力の停止を求める申立てが行政事件訴訟法二五条二項の要件を欠くことを主張するものと解されるが、原決定認定の本件大会の規模、開催の準備状況等からすれば、大会の期日を今から延期して、別の場所で開催することは、様々な混乱を招き、また、いろいろな面で解決困難な事態を生じさせることが予想され、事実上不可能と判断されるのであって、本件取消処分の効力の停止を求める申立てが前項の要件を欠くものとはいえない。

二  よって、本件取消処分の効力の停止の申立てを認容した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用は抗告人の負担とすることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 大坪丘 裁判官 近藤壽邦)

別紙抗告状

抗告人 三鷹市長

安田養次郎

右代理人弁護士 堀家嘉郎

相手方 全日本教職員組合

右代表者執行委員長 三上満

抗告の趣旨

右決定を取り消す

相手方の申立てを却下する

訴訟費用は相手方の負担とする

との裁判を求める。

原決定の表示

主文

一 相手方が平成三年七月九日付けで申立人に対してした三鷹市公会堂ホール及び別館会議室の使用承認の取消処分の効力を本案決定が確定するまで停止する。

二 申立費用は相手方の負担とする。

抗告の理由

一1 審査請求前置主義が採られているのは、次のような合理的な理由に基づくものである。

裁判所は、具体的事案に法律を解釈適用して司法判断するのであって、必ずしも行政に通暁していることを期待することができないのに対して、行政庁は日常住民に接して合目的判断に基づいて行政権の行使を掌るものであり、また、包括地方公共団体である都道府県は傘下の市町村を指導、援助するものである(地方自治法二条六項三号)。

されば、公の施設に関する市町村長の処分に不服がある者は、まず都道府県知事に対して審査請求をし、その裁決に不服があった場合には市町村長の処分の取消しを請求する訴えを提起することができることとしているのである(同法二二四条の四第一項、二五六条)。このように審査請求前置は、裁判所に先立って行政に通暁した都道府県知事の判断を求めることが妥当適切であり、かつ、行政権内部における簡易迅速な処分を求めることが妥当であることにある。

そして、行政不服審査申立てに伴い、執行停止申立てをすることができ、回復困難な損害を避けるため緊急の必要があると認められるときには、審査庁は処分の執行停止をするのである(行政不服審査法三四条二項、四項)。

2 原決定は、行政事件訴訟法八条二項二号に規定する「処分により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当する事由があるものと認められると認定して、抗告人の不服申立前置を要求している地方自治法二四四条の四第一項、二五六条の規定に違反するという主張を斥けている。

しかしながら、不服申立前置の立法の趣旨は前述したとおりであるのに加えて、本件申立ては七月一〇日に提起され、同月一二日午後四時を意見書提出期限として指定し、同月一五日原決定をしたという時間的経過に照らして、相手方は都知事に対して地方自治法所定の審査請求と行政不服審査法所定の執行停止の申立てをし、その決定を得るに十分な時間的余裕があったことが明らかである。

都知事が原裁判所と同じスピードで審理、決定をしないという根拠はないし、同月二三日が本件定期大会の第一日目であるから、原決定から当日までに一週間以上の余裕があることは明らかである。

原決定が、法定された不服申立前置を無視して、不服申立てを経ないで裁判所に執行停止申立てをすることができる緊急の必要があると認定したことは違法である。

二 相手方の定期大会の開催日は、株式会社のように一定の日までに開催すべきことが法定されているものではない。

一方、言論の自由は、特定の施設と結びつくものではなく、国内のどこにおいても、また建物に限らず、広場、運動場、河川敷等においてもこれを行使することができるものである。

相手方は、昨年、岸和田市で開催された第一回定期大会における混乱を承知しているのであるが、本年も同様な混乱が生じ、近隣住民の平穏な生活を妨害することは十分予測している筋合である。

したがって、市民生活への影響を考慮し、信義誠実の原則に則り、定期大会の日を延期して、妨害の少ない場所で開催すべきであったが、原裁判所は、この点について、かかる判断を看過しているものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!